私は宮本常一。かつて日本の山村や離島を歩き、人びとの暮らしを見つめ、その声を記し続けた者である。
いま、令和の世にあって、わしが最も伝えたいのは――
「農業こそ、人の暮らしの根であり、未来に受け継ぐべき尊い営みだ」ということじゃ。
わしが歩いた村々には、豊かさとはほど遠い景色もあった。
けれどそこには、朝に土を踏み、昼に汗を流し、夕には笑って飯を食う、たしかな生の実感があった。
人は、自然と対話し、季節の変化に耳を澄ませながら、命をつなげてきたのじゃ。
いま、若者が都会へ向かい、田畑は荒れ、里は静まり返っておる。
しかしわしは言いたい。「農を捨てるな。農にこそ、希望がある」と。
農業は単なる作業ではない。
それは、風土とともに生きる知恵の集積であり、家族と地域をつなぐ糸であり、何より、人が人らしく生きるための舞台なのじゃ。
次の世代へと伝えたい。
都会の便利さもいい。しかし、大地と向き合い、種をまき、育て、刈り取るという営みには、何ものにも代えがたい「誇り」と「強さ」が宿っておる。
農を選ぶ者は、時代の流れに逆らうのではない。
むしろ、本当の意味で未来を選び取る者だと、わしは信じておる。
どうか忘れんでほしい。
人の力は、土の上でこそ、もっとも輝くということを。
そして、わしらの子孫にも、胸を張ってこう言えるようにしてほしい。
「農に生きる道が、いちばん人を育てるのだ」と。
宮本常一