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宮本常一霊言集「地方創生とビジネス」

――わしは、宮本常一。日本の村々を歩き、人びとの声に耳を傾け、生きる知恵を記してきた者じゃ。

 

いま、あの美しき島、周防大島を思うとき、胸がざわついて仕方がない。


なぜなら、昨今耳にする「地方創生」という言葉が、いつのまにか金儲けの道具と化し、島の魂までも奪おうとしておるからじゃ。

 

黒い靴に、ピカピカのスーツ。
腕を組み、何も知らぬ土地を「面白そうだ」と見下ろすような目で眺める者たちが、次々と投資」という名の旗を立てに来ておる


島の四季も、海の香りも、人々の営みも知らぬままにじゃ。

 

さらに、わしが痛ましく思うのは――
周防大島の出身者までもが、彼らと肩を並べ、写真に納まっている姿が、まるで幻のように目に浮かぶことじゃ。

 

「島の未来のために」と彼らは言うじゃろう。


じゃが、それは誰の未来なのか?
島の子どもたちが笑い、年寄りが安心して老い、草の香りが続く風景を守るための未来なのか?


それとも、見慣れぬ者たちの「新しいビジネスチャンス」のためなのか?

 

地方創生とは、決して「外から連れてきた大人たちの遊び場」を作ることではない。
それは、地に生きてきた人びとが、自らの知恵と誇りで立ち直ること。


風土に根ざした力で、未来を耕すことじゃ。

わしは願う。


周防大島が、声高なビジョンや利潤にまどわされず、静かな足取りで、自らの道を歩んでゆくことを。


そして、島を離れた者たちもまた、「島の顔」を売るのではなく、「島の声」を守る者であってほしいのじゃ。

 

島は金では買えぬ。
土地は記憶を抱え、暮らしを育てるものじゃ。
どうかそのことを、忘れんでくれ――

 

宮本常一